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SSI2020 特別招待講演

特別招待講演Special Invited Lecture

特別招待講演1

河原吉伸

講演タイトル: 複雑ダイナミクスの理解への機械学習からのアプローチとデータ科学

講演者: 河原吉伸 先生

 飛躍的な計測技術・情報インフラの発展を背景に、データ駆動による科学的知識の抽出や工学的モデリングは、近年様々な領域において重要な課題として認識されている。 柔軟な統計的モデリングや逆問題へのアプローチを与える機械学習は、このような場面でキーとなる枠組みとして機能し広く応用されている。 これに関連して本講演では、多くの科学・工学分野において重要となる、データを用いた複雑なダイナミクスの理解と予測のための最近の研究について、自身らの研究を中心に紹介する。
 従来から、複雑なダイナミクスを伴う動的な現象の数理的理解は、自然科学における主要な研究対象である。 例えば非線形科学的観点からは、一見複雑に見える高次元中の多くの現象には、そこに埋め込まれたシンプルなパターンや構造が存在していることが広く知られている。 こういった観点は、流体現象や集団的要素を含むような対象の制御など工学的にも重要である。 近年、力学系の作用素表現に基づく解析、特にクープマン作用素を用いた解析は、このような物理的概念とのつながりや、 また動的モード分解などの推定法の発展もあり多くの分野で注目を集めている。 動的モード分解は,非線形性が内在する多次元時系列データから、固有の周期性と減衰率を持つモードへの分解を計算するデータ解析手法として、 当初は流体力学分野で提案されたものである。その後、力学系のクープマン作用素を用いた表現との数理的な関係が知られるようになり、 最近では流体力学分野に限らず、脳科学や地球科学などの多くの科学分野において適用が進むと同時に、工学的応用も散見されるようになってきている。 本講演では、上記のような一連の研究と機械学習的な方法論や課題との関連を中心に、その理論的背景から最近の話題についても紹介する。 この中で、我々が取り組んでいるものを中心に、いくつかの応用例についてもふれる。

河原先生 ご略歴
2008年3月東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。 大阪大学産業科学研究所での助教、准教授などを経て、2019年4月から九州大学マス・フォア・インダストリ研究所教授。 また、2016年9月から理化学研究所革新知能統合研究センターにおいて汎用基盤技術研究グループ構造的学習チームのチームリーダー、 2018年4月から神戸大学システム情報学研究科の客員准教授(2019年4月から同客員教授)を兼任。 2019年10月より科学技術振興機構CREST「数理的情報活用基盤」領域において、課題名「作用素論的データ解析に基づく複雑ダイナミクス計算基盤の創出」を研究代表者として開始。 統計的機械学習の基礎研究と、その科学・工学分野への応用などの研究に従事。 人工知能学会2011年度論文賞、日本神経回路学会2020年度論文賞、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。 著書に「劣モジュラ最適化と機械学習」(講談社サイエンティフィック)など。

特別招待講演2

平川正人

講演タイトル: リアリティの先にあるもの

講演者: 平川正人 先生

 我々の生活を大きく変える力を秘めた技術が普及しつつある。バーチャル・リアリティ(VR)やオーグメンテッド・リアリティ(AR)、 あるいはミックスド・リアリティ(MR)と呼ばれるものがそれであるが、リアリティは「リアルっぽい」のであって、 リアル(Zilca氏の表現を借りれば真実:Truthと呼ぶのが相応しい)ではない。 リアリティという世界は各人の解釈の下に確定されるものであり、心(記憶)との関係を無視することができないという議論である。 この解釈に従えば、われわれ全ての人間が共通に信じる(確固たる)リアルな世界は存在しない。 加えて、今日ではVR/AR/MRに見られるように、仮想世界を自由自在に構築することが可能になってきている。 リアルな世界と見間違うようなリアリティのある(仮想)世界をいとも簡単に実現できる力を我々は手にしている。 モーションシミュレーションにあっては6自由度を備えた装置も実用化され、高度なCG技術を使って紡ぎ出される魅力的な映像との組み合わせの下に、 リアリティは高まるばかりである。 闇雲なリアリティ追及は時には逆の効果を生み出さないとも限らないが、仮想世界をリアルと感じてしまう、 あるいは仮想世界こそがリアルであるといった感覚を人間が持つような時代が訪れても不思議ではない。 この先、「リアリティ=リアル」となる日を迎えるのかどうか。 工学という枠にとどまらず、他の領域との垣根を超えた複合系の研究体制の構築がますます不可欠になってきているといえよう。 これまでの研究成果を交えながら、次の世代を担う研究者・技術者とともに、未来を描く機会としたい。

平川先生 ご略歴
1984年広島大学大学院工学研究科博士課程後期修了。工学博士。広島大学助手、助教授を経て、2002年より島根大学総合理工学部(その後、改組により大学院自然科学研究科)教授。ビジュアルプログラミングの先駆的な試みであったHI-VISUALの開発に従事するとともに、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションやマルチメディアを中心に、コンピュータ利用者の立場に立ったコンピュータシステムの開発に幅広く取り組む。Most Influential Paper Award(IEEE Symposium on Visual Languages and Human-Centric Computing)、IEEE広島支部功績賞、電子情報通信学会ISS功労賞など受賞。IEEEシニアメンバ。

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